〇一生のお宝的道具
わが家は代々農家でもない漁家だったのに、半農半漁とでもいうべき生業だったので、わが家の収納小屋には親の代から使っている鍬類が沢山残っていますが、その殆どは使うこともなく整理されて処分されることもないまま、所定の位置に吊り下げられています。よく使う鍬は畝を立てる巾鍬、根菜類を掘る三つ鍬、ゴボウを掘るのみ鍬、草を削る草削り鍬など4~5本程度で、それらはよく使うため土で磨かれ鈍い鉄の光を放っていますが、多分これからも私の大切な道具として使われるものと思われます。
そんな中、手に馴染んで一番よく使う巾鍬は、母親が生前から使っていたものを譲り受けて使っていますが、使い過ぎて鉄が痩せて薄くなってきたようで、そろそろ買い替えの時期かな?と思っていた矢先の先日、お墓参りの帰りにオズメッセのスーパー入口軒下外で、土佐刃物を売っているお店が目に留まり立ち寄りました。ご存知のとおり土佐刃物といえば手打ちの名代の代物で、ホームセンターなどで売っている物よりは品質もいい代わりに、値段も2~3割高いのです。店の中には入りあれこれ見ていると、土佐人らしいご主人が私の姿を目敏く見つけ、土佐刃物の特徴を喋り捲りました。
「酒やご馳走は呑んだり食べたりすると消えるが、道具は一代物ですから・・・」という言葉に後押しされて、立派な巾鍬を一丁妻の懐具合を相談して買うことにしました。値札は7,500円でしたが、500円値引きして7000円でした。運よく軽四トラックだったので、荷台に積んで意気揚々と帰って来ました。その夜は雨が降る予想だったので、無造作に書斎の中に取り込んで置いていると、妻が「鍬を書斎に入れるなんて、まるで子どもみたいだ」と大笑いされましたが、鈍い鉄の光を放つ巾鍬はこれから長くもないであろう私の一生の、いやひょっとしたら息子の長い一生の道具として役に立つことでしょう。そう思えば道具は安いものです。今年はこの巾鍬でせいぜい美味しい野菜を作りたいものです。
「スーパーの 軒先出店 土佐刃物 色々見つつ 品定めする」
「巾鍬を 手にしていると 主さん 安いもんだと 饒舌勧め」
「500円 負けときますと 7000円 支払い巾鍬 軽四積んで」
「この鍬を 私の代と 息子代 続けて使う わが家お宝」