〇岡山での講演会(その2)
西川アイプラザでの講演会が終って壇上から降りようとすると、講演した私にそれは立派な花束が贈られました。きらびやかな世界に縁の少ない、田舎のおじさんである私には似ても似つかぬもので、穴があったら入りたいような気恥ずかしさでしたが、甘んじていただきました。控室を出る時担当の方が「この花束はいかが致しましょうか?」と気遣ってくれたので、「折角いただいたのですから明日の朝持って帰ります」と言ったら、「分かりました。大切に宿舎のホテルの方へお持ちしておきます」と気配りされました。
私はその後閉会のあいさつをしている田辺さんを置き去りにして、「鯉の群」という田辺さんのお店へタクシーで店長さん・従業員さんと向かいました。程なく到着したお店はその日休みのため、店長さんたちが電器のスイッチを入れ店の内外を案内してくれました。炭焼の店らしく満席40人が座れる店内は和風民芸調で、綺麗に片付いて清潔感がありました。何よりも驚いたのは店の入口に盲人用の点字ブロックが張られ、軒先庇も雨の日には長く伸びるようなお客様本位のアイディアが施され、カウンター席には盲導犬も入れるように工夫がされていました。またメニュー帳は点字のものもあって、「ここまでやるか」と大いに驚きました。
壁に一枚の墨書き板を見つけました。「両親を失うと過去を失い、連れ添いを失うと今を失い、わが子を失うと未来を失う」と書かれていました。私は早速ポケットから名刺入れを取り出し、名刺の裏にメモさせてもらいました。この言葉が今も頭の先にこびりついているようです。その後板前料理よしみというお店で、講演会に参加した20人と交流会を持ちました。酒屋、玉子屋、苗屋、ペンキ屋、会社員と職種は様々で、美味しい料理を食べながら大いに盛り上がりました。
田辺さんが私と出会ったきっかけは、大島塗研という会社の蒲武士さんです。蒲さんが田辺さんのお店で「愛媛に若松さんという面白い人がいる」という、話を聞いた田辺さんが行動を起こし、蒲さんも地元瀬戸内市商工会青年部の研修会で双海町とわが家を訪ね、今回の講演会となったのですから世の中は分からないものです。私の横に座った蒲さんとも夜のふけるのも忘れて11時まで大いに人生を語り合いました。その後宿舎のシティホテルまで送ってもらいましたが、余韻覚めやらず中々寝付かれませんでした。
明くる日はいただいた大きな花束を抱えて、岡山駅から特急しおかぜに乗り、昼前に松山へ着いて県庁で何事もなかったような顔をして会議をこなし、夕方自宅へ帰って来ました。大きな花束を見て居合わせた妻は大いに驚き、「岡山で何があったの?」と根堀り葉掘り聞くので、田辺さんのことや講演の様子、交流会での出来事を話してやりました。私にとって昨日までの二日間はまるで夢のような出来事でした。名刺の整理をし、ハガキを出して一件落着でしたが、よしみというお店でいただいた吉田さんの名刺の裏にも「人の道」という次の言葉が書かれていました。
「忘れてならぬものは恩義・捨ててならぬものは義理・人に与えるものは人情・繰り返してならぬものは過失・通してならぬものは我意・笑ってならぬものは他人の失敗・聞いてならぬものは人の秘密・お金で買えぬものは信用」と8項目に及んでいました。「恩義・義理・人情・過失・我意・失敗・秘密・信用」、どれも納得のいく人の道でした。ああ今回も反面教師でいい事を学んだ旅でした。
「花束を 顔に似合わず 持ち歩く 会う人毎に 首かしげられ」
「いい人に 出会いご縁を 深めたる 小さな旅を 妻に説明」
「定休日 飲み屋の中を 見渡して 壁に掛けたる 板に目が行く」
「人の道 名刺の裏に 書いている なるほど納得 ブログに遺す」