○親父の決断
昨日の朝、私が書斎でパソコンに向かって文章を書いていると、親父がやって来ました。「相談がある」と言って椅子に座り、ポツポツと話し始めました。
「このところ足や腰が痛く、目も薄くなって自分の体力の衰えを感じ始めた」
「自分と同年代の人も殆ど死んでしまっていなくなり、話し相手が少なくさびしくなった」
「自分の命もそんなに長くは持たない」などと、いつもと違った消極的な話です。
聞けばこの10日余り、自分なりにこれからの短いであろう自分の人生を色々考えたようです。その結論として「特老に入った方が仲間もいるし身の回りの世話もしてくれるので」と思い、近くに住む二人の娘に相談したところ、「施設に入ったらもうこの家には殆ど帰れないからやめた方がいい」と、色々な人の話しをしたそうです。二人の娘は私たち兄弟夫婦に遠慮してか、「家族もよく面倒を見てくれるし、これ以上の幸せを求めたら罰が当たる」などと、私たちの親父に対する対応を褒めて話したらしいのです。
その結果次のような宣言ともとれる言葉を私に話しました。
「わしはこの家の畳で死ぬことにしたので、これからもよろしく頼む」
「この家で死ぬということは、戸長であるお前の言うことをよく聞くから何でも言ってくれ」
「あと1ヶ月したら孫や曾孫が一緒に住んでくれるという相談を受けて、これ以上の幸せはないが親子でもめな
いよう仲良く暮らしてくれ。孫たちが帰るのなら隠居を明け渡してもいい」
「年金暮らしなので金はないが、わし一人暮らすのには十分だ」
「畑仕事や庭の草引きくらいしかわしの体力では役に立たない」といいました。
最近10年前に80歳で亡くなった母の夢をよく見たようです。そして母と夢の中で対話をして、この結論めいた決断をしたそうですが、薄れ行く記憶の中で、今しか自分の主張を信頼する息子に話す機会はないと思っての発言と重く受け止め、私も私なりに親父に話してやりました。
「これから死ぬまで一生面倒を見るからよろしく頼む」
「して欲しいことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「あまり無理をするな」
「家族と楽しく暮らそう」でした。
「この家の 畳で死にたい 言う親父 母と相談 夢の出来事」
「人は皆 歳とり一度 死ぬ定め 俺の将来 見ているようだ」
「人生を 悟った親の 言う言葉 長男ゆえに しかと受け止め」
「貧乏を 物ともせずに 生きた父 しっかり看取り 生かせやりたい」